業界の第一人者である松村清がドラックストアの事例を交え「売る」極意を公開
第34回
「お店は楽しくなければ行く気がしない」
優秀なチェーンストアが苦戦する理由
かつては優秀と言われた大手チェーンストアが業績不振に陥り苦しんでいる。売り場は整理整頓され、サインはきちんと貼付され、コンピューターで打ち出された画一的なPOPを掲示し、クレンリネスも行き届き、POSで売れ筋を分析してしっかり品揃えし、接客もマニュアル通りに行っている。しかしどこかお客の共感を呼ぶ温かさがなく、しらけた無機質な売り場環境になっている。米国に例をとるなら、日本のスーパーマーケットが見習うべき代表的企業としてかつて大変もてはやされた超大手スーパーマーケットチェーンのアルバートソンが良い例だ。画一的で味も素っ気も無い効率のみを追うチェーンストア理論に邁進し、顧客離れを起こして結局会社は売却されてしまった。ディスカウントストアのKマートやGMSのシアーズも然りだ。かつての優良チェーンがどうしてこのような衰退の道を辿ったか?それは消費者ニーズの変化に対応出来なかったからだ。
モノの提供プラスアルファが重要
モノ不足の時代は、人々の生存欲求ニーズが高いため効率至上主義の手法でよかったが、現在のようなモノ余り時代には、モノだけの提供でなく「楽しさ」という付加価値が重要になっている。モノだけを販売する店には、顧客はモノが必要になった時しか来店しない。一方、楽しい店には気分転換や時間つぶしにも立ち寄り、そのついでにモノを購入する。中堅どころの成長著しいスーパーマーケットのホールフーズマーケット、パブリックス、ウェグマン、そして小規模のスチューレオナード、ブリストルファーム、トレーダージョー、ドラッグストアのCVS、ホームファッションのベッド・バス&ビヨンド等、顧客の支持を集めている企業には例外なく常に売り場が変化している楽しさとエキサイトメント感がある。日本でもローカルのスーパーマーケット企業(北九州のハロデーや軽井沢のツルヤ等)には楽しさがあって顧客の支持を多く集めている。
店舗を非日常空間にするポイントとは
日常生活には「ハレ」と「ケ」がある。「ハレ」は非日常的な時間と空間で、「ケ」は普段の暮らしのことである。人間は「ケ」だけの生活を送っていると、単調な生活に飽きてしまう。カーニバルとか祭りは、「ケ」の生活から人々の欲求不満を吐き出させる大切な役割を果たしている。お客が店に足を運ぶのは、必要な商品やサービスを求めるためもあるが、同時に普段の生活と違う非日常性を期待しているからだ。そのため、お客は何となく明るい気持ちになれたり何か新しい発見がある楽しい店が好きである。売り場の整理整頓は当たり前のことで、そこに意識的な崩しや、迫力ある楽しさ、エキサイトメントのある陳列、人のぬくもりを展開すること等が非常に重要だ。最近の米国では「販売は祭り、陳列は芸術」が売り場作りの常識になっており、新店や店舗改装のときの大切なポイントは、いかに「お楽しみの場」を作るかだ。小売業は売る側の論理である効率的な「売り場」作りから脱却し、顧客が買いやすい「買い場作り」へと進化したが、それでもすでに時代遅れになり、今はまず楽しんでもらうことでお客を店に誘うという有効時間消費を目的にする時代になった。そのようにしなければお客が来店しないからだ 。
売上は、どれだけお客が売り場を楽しく感じるかに比例する
楽しい時は時間が短く感じ、退屈な時間は長く感じる。時間には物理時間(時計で刻まれる時間)と、認識時間(人間が感じる時間)の二つがある。人は往々にして物理時間ではなく、そのときに何をし、何が起きたかという事柄に基づいて時間を認識している。待ち合わせた時に待たされる時間や車が渋滞したときは同じ30分でもとても長く感じるし、興味の無い授業は時間が経つのが遅い。逆に恋人と過ごす楽しい時間は短く感じ、ゲームに熱中するとあっという間に時間が過ぎる。買い物も同じだ。買い物をしていて「もうこんな時間になってしまったの?」と感じるときは楽しい買い物をしているときだ。そのため売り場作りには「楽しいときは時間が短く感じる」という心理を活用して、お客が楽しく感じる店作り・販促・接客を考えることが重要なのだ。
売り場面積当りの売上げ世界一になったことのあるスチューレオナードは、「スーパーマーケットのディズニーランド」と言われている。店内におもちゃの楽団をディスプレーして演奏させたり、店の外ではミニ動物園を配置し、ハロウィーンなどのイベントを数多く実施したりと子供から大人までが楽しめる店作りをしている。スーパーマーケットウェグマンでは名シェフを雇い、その人に指導を受けた料理人が惣菜の各売り場で美味しそうな料理を作っているところを見せ、お客の購買意欲を高めている。料理教室も実施している。これらの企業は常に「ハレ」の雰囲気を作らないと、お客はその店に飽きて来店してくれなくなることを知っているからだ。自店の来店頻度に合わせて、常に新鮮な“What’s New?” (目新しいことはなに?)に応える努力をしている。
最近の消費者は、「ケ」については徹底的に節約し無駄なものは一切買わず、同じ商品であれば一円でも安く買う傾向が強い。一方「ハレ」については、おおらかに財布のひもを緩めることでバランスをとっている。従って、小売店はハレの日をどう設定し、商品や売り場をどれだけ普段と変えられるかの実力が問われる。季節の祭事以外では週末を「ハレ」の日と考える人は多い。スーパーマーケットの場合、週末は平日とは違った品揃えで、オードブル、サラダ、メインディッシュなどの少々豪華な食事の提案が必要になってくる。日本の家庭では食事の内容が普段と変わるのは、1位がクリスマス、2位が正月、3位が子供の日&ひな祭り、4位が母の日、5位が父の日となっているようだ。これらはハレの代表的な日なので、それに応じた品揃えや陳列は意識的に行わなければならない。
顧客の来店頻度を高めるために必要なこと
顧客の来店頻度を高めるためには、常に目新しい陳列を提供し続けなければならないのだ。米国の小売業はそのために祭事を特に大切にし、お店に「ハレ」の雰囲気を店あげて実施している。米国のドラッグチェーンNo.1のウォルグリーンは52週の販促プログラムを組んでいるが、店舗あげての大きな催事スケジュールとして下記が組まれている。企画は1年前にきっちりと作られ、メーカーや卸とコラボして全店ベースで雰囲気作り・陳列・イベントが展開されている。これらはお店を「ハレ」にし、顧客を動員するのに大きな役割を担っている。
シーズン |
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種類 |
時期 |
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冬 |
クリスマスセール |
11月初旬~12月24日 |
ホワイトセール |
12月25日~1月中旬 |
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バレンタインデー |
1月中旬~ 2月14日 |
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セントパトリックデー |
3月初旬~ 3月17日 |
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春 |
イースター |
3月中旬~ 4月中旬 |
ベビー週間 |
4月初旬~ 4月下旬 |
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母の日 |
4月中旬~ 5月中旬 |
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夏 |
父の日 |
6月初旬~ 6月下旬 |
卒業シーズン |
5月初旬~ 6月中旬 |
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ジューンブライド |
6月中旬~ 6月下旬 |
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独立記念日セール |
6月中旬~ 7月4日 |
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ホワイトセール |
7月5日~ 7月中旬 |
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サマーバケーション |
7月初旬~ 8月中旬 |
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秋 |
バック・トゥ・スクール(新学期) |
8月中旬~ 9月中旬 |
ハロウィーン |
10月初旬~10月31日 |
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サンクスギビング |
11月初旬~11月下旬 |
10月のハロウィーンはその面白さから近年日本でも取り入れられ始めたが、米国ではどの店舗でもお化けかぼちゃのジャックや各種おばけ(幽霊、魔女、コウモリ、黒猫、ゾンビ、魔人等)のPOPで一杯になり、従業員までがいろいろ仮装を凝らして顧客に接している姿はなかなか楽しいものだ。
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Information
松村 清 主な書籍
他
「サービスの心理学―心に染みるエピソード集」 |
「目からウロコ 販売心理学93の法則」 |
「ニューシニア(50歳以上)をつかまえろ!!」
「 売上げと利益を運ぶロイヤルカスタマー」 |
「最強のドラッグストア ウォルグリーン」 |
「 米国ドラッグストア研究」 (以上、商業界刊)。
セミナーの案内
Profile
Excell-Kドラッグストア研究会
( http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)
Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。
■レポートの中で事例として登場する「ウォルグリーン」は全米No.1のドラッグストア